会社設立

アメリカ LLCの設立方法

現在アメリカで最もの人気のある会社形態、”LLC” (Limited Liability Company)。今回はそんなLLCの設立方法や設立後の手続きについて解説致します。

 

 

LLCの管轄は各州によってなされています。従い、厳密には各州ごとのやり方をきちんと確認しなければいけませんが、大まかな流れはどの州でも共通するものがあります。ここでは、ニューヨーク州でのLLC設立手続き、費用等にフォーカスして解説しております。

◆設立プロセス◆

Step 1. 会社名を決める

まずは会社の名前を決めましょう。LLC設立の場合は、会社名にLimited Liability Company、もしくは省略形のL.L.C又はLLCを付けなければいけません。日本の株式会社が必ず一番最初か最後に株式会社と表記しなければならないのと同様です。但し、ビジネス上はDBA (Doing Business As)といって、正式な会社名とは異なる名前でビジネスを行うことが可能です。

 

同じ州で重複した会社名を使用することはできません。下記ニューヨーク州のサイトにて、既に同じ会社名がないか調べることができますので予めご確認ください。

Step 2. Registered Agent (登録代理人)の選定

LLC設立にあたっては、Registered Agentを選定する必要があります。Registered Agentは、州政府から届く様々な通知(会社の更新登記や税関係の書類等)を受け取り、会社に知らせてくれる役割を担います。設立発起人本人でもなれますが、物理的に州内にいない時は不便になるため、本人以外で定めておくことケースが多くなっております。

 

ニューヨーク州では、特に自分で選択を行わない場合、Secretary of State (州事務官)がRegistered Agent となります。ただし、オンラインで登記した場合は、州の事務官ではなく、民間のRegistered Agent Serviceを指定することができます。Registered Agent Serviceを利用すると費用面において大きなメリットがあります。詳しくはStep 4をご参照ください。

 

Registered Agent Serviceを利用することにはメリットがあり、自分で不安を抱きながら色々と手続きをすることも避けられるので、新しく事業を始められる方にはお勧めしております。例えば、下記のような会社があります。

https://www.northwestregisteredagent.com/new-york-llc-publication.html

Step3. 会社登録

LLCの会社登録は、ニューヨーク州に対してArticle of Organization(定款)を提出することでなされます。オンライン又は郵送どちらかを選べますが、基本的にはオンラインのほうが断然楽ですので、特別な事情がない限りはオンラインで十分だと思います。登録費用は固定で200ドルになります。

 

なお、LLCの会社登録にあたっては、”member managed LLC”か”manager managed LLC”かを選択することが要求されます。LLCでは、そのシェアの保有者を株主ではなく”member”と呼びます。すなわち、member managed LLCは設立者や出資者と経営する者が同一の場合をいい、manager managed LLCは設立者や出資者と経営するものが別の場合をいいます。シェアの保有者が大勢いる場合や日本の子会社としてLLCを設立する場合はmanager managed LLCとなりますが、スタートアップ等の設立者がそのまま経営を行う場合はmember managed LLCとなります。

Step4. 設立公告義務の履行

こちらはどの州でも義務があるわけではありませんが、ニューヨーク州においては、LLC の設立日から 120 日以内に、主たる事務所が置かれた郡の書記官(County Clerk)が指定する新聞 2 紙に連続 6 週間にわたり設立公告を実施しなければなりません。こちらを行わないとLLCの登録が抹消されてしまいます。

 

この公告費用が事業を始めたばかりの方にとっては結構な負担となるため、ニューヨークでLLCを選択することを避ける方も一定数いらっしゃいます。例えばマンハッタンを含むNew York Countyで代理会社を通して公告する場合は、 費用として2紙で$1,300~$2,000 程度かかります。

 

しかし、ここでStep 2で触れたRegistered Agencyが重要な役割を果たします。公告費用は主たる事務所が置かれた郡により異なります。そして日本人の方が多く住まれている人気エリアNew York Countyは、その中でも最も高額です。一方、例えば近隣のOrange County では$400程しかかからないと言われております。従い、主たる事務所の住所をどこに置くかで、発生する経費に大きな差が出てくるのです。そこでRegistered Agencyが活躍します。Registered Agency Serviceを利用した場合、主たる事務所の住所として、Registered Agencyの住所を使用することができます。よって、Registered Agencyを利用することで、仮に自分の家やオフィスがNew York Countyであったとしても、公告費用の安い郡で設立を行うことができるのです。さらに、公告期間終了後は、いつでも追加の公告義務なしで主たる事務所の場所を変更することもできるので、Registered Agencyに支払うコストを考慮しても、当該サービスを利用することに価値があると言えます。

 

なお、郡によっての公告費用はこちらのサイトで確認できます。

公告期間中に事業活動を行なうことに差し支えありません。また、公告終了後、公告証明書(Certificate of Publication)を法務局に提出する必要があります。申請料は50ドル。怠った場合、LLCは法人格停止処分となってしまうので必ず提出が必要です。

Step 5. Operating Agreementの作成

こちららも州によって異なりますが、ニューヨーク州では、LLCを設立する際にOperating Agreementの作成が必ず要求されます。社員が一人のみの場合であっても必ず作成しなければいけません。Article of Organizationの届け出後90日以内に、社員全員によってOperating Agreementを書面により締結することが義務付けられています。ただしOperating Agreement自体を、州に提出する必要はありません。

 

昨今はweb上で多くのテンプレートが無料で入手できますし、法律事務所等が少額でウェブ上で完結するソフトウェアを提供したりもしております。

Step 6. EINの取得

会社設立後、連邦課税当局が企業の識別に用いる番号である連邦雇用主番号(EIN)を取得します。EINは会社の銀行口座開設や、連邦税・州税法等の支払いなどに際して必要となります。EINの取得申請は、内国歳入庁(Internal Revenue Service: IRS)に対し、オンライン、電話、ファクスまたは郵便(書式SS-4に必要事項を記入して提出)で行います。詳細はこちら参照。

◆LLC設立に伴う重要な手続き◆

1. 会社の銀行口座開設

会社の銀行口座を作ることで、個人の資産と会社の資産を区別します。個人の資産と会社の資産を明確に分けていないと、法人格がないものとみなされ、もしもの時があった際に個人の資産にまで責任が負う可能性がありますので、個人の資産を守るためにもこちらは重要な手続きになります。また、銀行口座を作ることで会社用のクレジットカードを作ることでき、個人と会社の支出を区別し、会社のクレジットヒストリーを積み上げていくことに繋がっていきます。

2. 雇用者登録及びSales Tax登録

ニューヨーク州で一人でも雇用を行う場合、New York Department of Labor(https://applications.labor.ny.gov/eRegWeb/registerEmployer/uiEPMWelcomeMain.faces)においてUnemployment Insurance (雇用保険)とEmployee Withholding Tax (源泉徴収税)の登録をする必要があります。

また、Sales Taxの対象となる商品やサービスを販売する場合、New York Department of Taxation and Financeにおいて、Certificate of Authorityを取得する必要があります。

3. 会計システムの導入

会計帳簿を作成することはビジネスを始めた方にとって必須の作業です。実際の事業はまだ開始していなかったとしても、設立にかかる経費やPC等の機材の初期投資など、様々な経費が発生いたします。最初のうちはエクセル等で管理することも可能ですが、本気でビジネスをやっていくことを考えているのであれば、会計システムを導入することで面倒な事務作業が格段に楽になりますので、できるだけ早い段階から導入することを強くお勧めいたします。会計システムを導入することで、銀行口座やクレジットカードの情報を直接取り込むことができたり、領収書を電子保管できたり、確定申告時の作業が簡便化されたりと、たくさんのメリットが存在します。月数十ドルの投資ですので、ビジネスを行う上での必要経費だと思ったほうがよいでしょう。

なお、アメリカの中小企業の8割以上がQuickBooksというソフトウェアを利用しております。初めての方にも使いやすいものとなっておりますが、初期設定を誤ってしまうと後からの修正に多大に時間がかかってしまいます。信頼できるアカウンタントに相談しながら導入するとよいでしょう。

4. ビジネスライセンスの取得

アメリカで特定のビジネスを行う場合、ビジネスライセンスやビジネス許可が必要とされる場合があります。ライセンスが必要となるビジネスは、連邦レベル、州レベル、自治体レベルでそれぞれ規程されております。連邦レベルでは、例えば以下のようなビジネスを行うためにはライセンスが必要となります。

  • 農業
  • アルコール販売
  • 物流輸送業
  • ラジオ、テレビ放送
  • 漁業

ライセンスが必要な業種は州ごとに異なるため、複数の州で事業を行う場合はそれぞれで確認しなければなりません。

  • 連邦政府のビジネスライセンスについて https://www.sba.gov/business-guide/launch-your-business/apply-licenses-and-permits
  • ニューヨーク州のビジネスライセンス https://www.businessexpress.ny.gov/app/index/st/4/c/133/page/1
  • 自治体のライセンスについては、商工会議所へお問い合わせください。

ライセンスの取得料は、ライセンスの内容により異なります。ライセンスの必要の有無の確認及び申請に関しては、専門の業者がおります。一回きりの費用で、100ドル程度ですので、安心してビジネスをスタートするためにも、業者を利用するのもひとつの賢い選択肢です。

5. 保険の加入

LLCは各州法の定める最低限の種類・内容の保険に加入する義務を負います。例えば、人を雇った場合、労災保険(Worker’s Compensation)、障害保険(Disability Insurance)、失業保険(Unemployment Insurance)への加入義務があります。General Liabilitiesに対する保険は任意加入ですが、訴訟リスクがある場合や、店舗運営するような場合は、保険に加入しておくことが推奨されております。

6. 雇用における法令遵守

従業員を雇うにあたっては、雇用者として以下のような法令を遵守する必要があります。法令順守は日本に限らずアメリカでも当然重要ですので、しっかりと確認するようにいたしましょう。

  • アメリカ国内で労働する資格があることを確認する。
  • 従業員を新しく雇用したことを州(Department of Labor)に報告する
  • Worker’s compensation (労災保険)を契約する
  • 源泉徴収を行う
  • 法令遵守に関するポスターを仕事場の見える位置に貼る
  • 週給、隔週給など州に定められた頻度で、少なくとも最低賃金の支払いを行う

 

監修者

小林 賢介

早稲田大学政治経済学部を卒業後、
有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。
2015年8月よりDeloitte NYに駐在。
その後、ニューヨークにて
UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。